日産EVを牽引してきたリーフの欧州販売が終了
日産が欧州市場において、リーフの生産を完全に終了し、販売も打ち切る方針を表明しました。また、リーフの後継モデルの存在とともに、欧州市場において日産が投入するマイクラEVの兄弟車、ルノー5の詳細なスペックが判明するなど、日産の欧州市場におけるEVシフト動向について解説します。
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まず、欧州市場における日産のEV戦略については、あと6年後である2030年までに新車として発売するすべての車種についてをバッテリーEVのみにするという、完全EVシフトを宣言しているという点が重要です。よって、現在日産が欧州でラインアップしている売れ筋のジュークやキャッシュカイといった内燃機関車も、バッテリーEVとしてリブートされることが決定しています。
他方で、足もとの電動化の進展状況という観点では、想定よりも進んでいないというのが現状です。
このグラフは、2020年以降の欧州市場における車種別のバッテリーEVの販売台数とシェア率を示したものです。日産については、欧州限定でラインアップしている、e-NV200の後継モデル、タウンスターのバッテリーEVバージョンの販売台数を公開していないため、実際にはもう少しEV販売台数が多いはずですが、それでも2020年シーズンと比較して、直近の2023年シーズンの販売台数は、むしろ減少している状況です。
とくに、緑で示されたリーフの販売台数は、2021年シーズンは3.5万台以上であったのに対して、2023年シーズンは2万台を割り込むという深刻な販売減少に直面しています。
よって、2023年シーズン全体でのバッテリーEVのシェア率は8.77%と、タウンスターのバッテリーEVバージョンを含めたとしても、まず一桁台であることは間違いありません。つまり、日産はあと7年間でこの比率を100%にまで持っていく必要があるわけであり、極めて挑戦的な目標であるということが見て取れるわけです。
そして、その欧州における日産の最新動向として新たに判明したのが、現在欧州でもっとも人気のEVであるリーフの現地生産を、すでに完全終了していたという驚きの動向です。現在、欧州域内唯一の工場であるイギリスのサンダーランド工場については、2013年からリーフの生産をスタートしており、それから10年間ほどで累計で27万台以上のリーフを生産してきたものの、ついにリーフの生産をすでに終了していると、日産側が公式に発表してきた格好となります。
すでに生産済みの車両に関しては、在庫車両として2024年中までは発売が継続されるものの、その在庫車両が捌けた段階で、欧州におけるリーフの販売が完全終了する方針も表明されました。
この生産と販売終了の理由については、積極的なモデルチェンジを行わなかったことによる、コスト競争力のなさという点が挙げられます。というのも、現在リーフの該当する大衆ファミリーハッチバックセグメントには、2020年から導入されているフォルクスワーゲンID.3やルノー・メガーヌE-Tech Electricなどという、EV専用プラットフォームを採用している本格EVのラインアップが拡大しています。
さらにそれ以上に、よりコスト競争力の高いMG4やドルフィンといった中国製EVが発売されていることによって、EV専用プラットフォームでもないリーフは、あらゆる観点で競争力を失ってしまっていたわけです。
そして日産は、リーフに変わる後継モデルを追加設定する方針も表明済みです。それが、すでにコンセプトモデルを発表している、Chill Outベースのコンパクトクロスオーバーの存在です。こちらは欧州だけでなく、グローバルモデルとなる見込みであることから、日本市場でも、リーフの後継モデルとして発売されることに期待できます。
他方で、このリーフの後継モデルに関して残念な点というのが、その発売は2026年中が予定されているという点です。現在、イギリス・サンダーランド工場については、20億ポンド、日本円で3800億円規模の投資を行うことによって、EV生産のハブとなるように大幅改修が行われている状況です。
よって、その改修後のEV生産工場でリーフの後継モデルが生産されるまでに、日産がどのようにして欧州の電動化を進めるのかに注目が集まっているわけです。
日産の前に立ちはだかるのはコスパ最強中国EV
そしてその欧州市場に導入が予定されているのが、マイクラのEVバージョンです。2024年中の導入がアナウンスされているこのマイクラEVは、日本のマーチの欧州バージョンとして、現在は販売が終了している内燃機関車のマイクラをEVバージョンとしてリブートしてきたモデルとなります。
そして、このマイクラEVについては、アライアンスメンバーであるルノーの新型EV、ルノー5の兄弟車であり、どちらもルノーのEV専用工場で生産予定です。その兄弟車であるルノー5については、ちょうど直近においてワールドプレミアが開催され、詳細なスペックが公開されました。
40kWhと52kWhという2種類の三元系バッテリーをラインアップすることで、航続距離は、欧州WLTCモードにおいてそれぞれ300kmと400kmを実現。充電性能については、最大100kW程度に対応することが可能です。さらに、全長が3920mm、全幅1770mm、全高1550mm、ホイールベースが2540mmと、日本のコンパクトカーと同等の取りまわしやすいサイズ感です。
また、マイクラEVも同様に、アライアンスのEV専用プラットフォームを採用しています。元々CMF-B EVプラットフォームと呼ばれていたものの、今回のワールドプレミア内において、AMPR SMALLプラットフォームと命名変更されました。いずれにしても、EV専用プラットフォームを採用することによって、コンパクトEVに求められるEV性能を実現してきた格好です。
そして、値段設定が2.5万ユーロからのスタート、日本円でおよそ407万円からのスタートを予定しています。現状ラインアップされているリーフについては、40kWh搭載グレードでも3万ユーロを超えていることから、同じく40kWhを搭載するルノー5が2.5万ユーロであることを鑑みると、コスト競争力がかなり増していると言えます。
他方で問題は、先ほど取り上げていた、とくに中国製EVの存在です。MG4については2022年末に発売されているにもかかわらず、51kWhバッテリー搭載グレードで2.8万ユーロから発売中。
また、ドルフィンについても、45kWhバッテリー搭載グレードで、同等の2.9万ユーロ程度から発売されている状況です。
つまり、じつはコスト競争力という観点では、2024年末に発売されるルノー5は、数年前に発売されている中国製EVと対して変わらず、やはり中国製EVのコスト競争力の高さが見て取れるわけです。
しかも、現在中国BYDについては、ハンガリーにおいてEV生産工場の建設をスタートしている状況です。よって、輸送費のコスト削減とともに、現在フランスを筆頭としてさらに多くの国で導入見込みの中国製EVを念頭においた補助金排除の制約を回避しようとしてきています。
BYD側については、2025年末から2026年前半ごろまでにハンガリー工場の操業スタートを計画しているため、補助金排除の動きを回避可能な見込みです。
いずれにしても、今回のルノー5、およびその兄弟車となるマイクラEVについては、リーフよりもコスト競争力は高くなるものの、競合関係となる中国製EVと比較すると、現状でも中国製EVのコスト競争力の高さが光るわけです。この点は、日産とルノーの電動化における大きな脅威となることは間違いありません。
このようにして、日産が欧州市場におけるリーフの現地生産をすでに終了しながら、2024年中にも13年間続けてきたリーフの販売の歴史に幕を閉じる方針を表明し、そのリーフの後継モデルとなるChill outベースのコンパクトクロスオーバーについては2026年中に現地生産スタートとなっていることから、ただでさえアリアの販売台数が伸び悩んでいる日産にとっては、後継モデル登場までの空白期間によってさらにEVシフトが停滞する可能性が出てきている状況です。
そして、その空白期間を埋める存在として期待されているのが、日本のマーチに該当するマイクラのEVバージョンの存在です。兄弟車となるルノー5のスペックを見てみると、EV性能や車両サイズという点で、日本にも導入してほしいと感じさせる、非常にまとまったスペックを実現しているように見えます。
他方で、現在欧州で脅威論が噴出している中国製EVの競合車種と比較すると、すでに同等のコスト競争力を有したEVが発売されているという点、並びに補助金排除や関税回避、輸送費削減などのために欧州域内に生産工場を建設中であるという現状を見ると、中国製EVのコスト競争力がさらに増していくことは間違いない情勢です。
いずれにしても、 ・世界初の本格量産EVであるリーフを発売した日産が、2030年までに、欧州の完全EVシフトを実現することができるのか。 ・そのために、マイクラEVを皮切りとして、リーフの後継モデルなどのEV性能やコスト競争力をどれほど引き上げることができるのか。 ・そして、中国製EVに対してどこまで対抗することができるのか。 ・さらには、日本国内においてリーフをいつまで生産するつもりなのか。 ・そして、リーフの後継モデルはいつから発売スタートとなるのか。 に注目です。
それ以外の新型EVの投入計画も含めて、最新情報が分かり次第情報をアップデートしていきたいと思います。
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